君待ち人





「俺のせいだから」


「え?」



「海が眠り続けてるのは、俺のせい、なんだ」




聞き間違いかと思った。

どういう意味なの?



凪雲先輩は緩やかに瞼を下ろしていった。完全に閉ざされた瞳の裏側には、一体何が散らされてあるんだろう。




「話長くなるけど、聞いてくれる?」


「はい。聞いてます。聞かせてください」



どんなに長くても、どんなに悲しい話でも知りたい。




凪雲先輩は記憶の中から過去を引っ張り出すように、ギュッと固く拳を作った。


パンドラの箱を開けて、慎重に語り出す。




彼がずっと胸に秘めていた、ここで待ち人を待つ理由は、ひどく切ない背景と絡まり合っていた。





「高校二年の冬―――」





そんな出だしから始まった、凪雲先輩の過去の話。



濁った赤茶色の葉が、足元に落ちる。なぜだか一瞬、その葉を純白の雪と見間違えた。

雪の冷たさまでも錯覚し、指先がかじかんでいた。




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