君待ち人
『でも、海は……』
『私は、海を幸せにできるのは凪雲くんだけだって思ってる』
そんなことない。
海には、俺なんかよりもいい人がいるはずだ。
なんでも器用にそつなくこなす空に、妹の幸せを無条件で託されるほどの男じゃないよ、俺は。
買いかぶりすぎだ。
『私、二人には幸せになってほしいの』
ふわりと緩められた頬に、一筋の涙が滴る。
その涙があまりにも綺麗で、思わず見惚れてしまった。
自分は不幸でもいい、みたいな言い方するなよ。
『俺も、空と海には幸せになってほしいよ』
前のめりに主張すれば、空は嬉しそうに瞼を伏せた。
空はたまに自分を犠牲にするところがある。
三人で、幸せになろう。たとえ、全員が同じ幸せを掴めなくても。
数秒の沈黙の後、空の瞼がだんだんと持ち上がっていった。
再び、目がかち合う。
『凪雲くん、ありがとう。ちゃんと振ってくれて』
『俺、嬉しかったよ。空に好きだって言ってもらえて』
嘘なんかじゃない。受け止めることはできなかったけど、本当の本当に嬉しかったんだ。