君待ち人




私のおかげ、と言ってもらえるような大層なこと、何もしてない。


私は、ただ、話を聞いただけ。




「本当に、ありがとう」




だけど、本当に彼が変わり始めていて、前へ進み始めているのなら。


そのうち後悔が溶けて、笑顔になれる。

彼の元にも、幸せがやって来る。



きっと彼の未来は明るい。




「私も、凪雲先輩のおかげで、毎日が楽しくて。凪雲先輩のそばにいられて、嬉しくて……っ」




泣くな。

泣くな、自分。


まだ、泣くのは早い。


泣いていいのは、彼がいなくなってからだ。




「私の方こそ、本当にありがとうございました」




私ばかりが幸せになっていいんだろうか。


涙の膜が張った視界じゃ、満足に桜のつぼみを眺められなかった。




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