君待ち人
だって、嬉しいんだ。
大好きな男の子がここへ来る日を待つこの時間が、嬉しくて、楽しくて、もどかしい。
約束を待っている一秒一秒が、私にとっては、デートの待ち時間のようなもので。
こうやって男の子を待つ日々は、いつか私の思い出となり、宝物となる。
そう思うと、ただ待ってるだけで退屈なはずの時間は、キラキラした大切なものになって、嬉しくなる。
辛いなんて、感じない。
約束したんだから。絶対、君は来てくれる。そう信じられる。
私の心には、十年前から色褪せない希望がある。
「桜ちゃんは強いね」
「強い……ですかね」
泣いてしまいそうなくらい震えていた声が、なぜか胸の奥に響いた。
「俺なんかよりも、ずっと強い」
自虐的にも取れるその言葉は、温かい春の香りに包まれながら、うっすらと消えていく。
その言葉の裏に何があるのか、何も知らない私はただその春の香りに癒されていた。
彼の言葉が完全に消えた刹那、また風が強く吹いた。
多くの桜の花びら達は、地面の土の色を誰にも教えないように、静かに覆い隠した。