3

「…先生……先生」


ゆさゆさ揺すってもなかなか起きない。

この人があたしの膝で眠りについてから、
もう30分は経った。

そろそろ足が限界を訴えてる。

もう足の感覚がなくて、
先生の頭が乗ってるのかどうかも
感じることができない。

頭をどかしたあと、
あのじわじわビリビリした感覚が
これから待ってるのかと思うと嫌だなと思った。


「…んん…」


身動ぎした先生の顔がお腹にあたる。
反射的に、お腹をへこませた。

んんー、間延びした声をだしながら
先生が手探りで何かを探す仕草をしだす。

ゆらゆら揺れる腕。

何を探してるんだろう?


「…わぁ!」


目の前をゆらゆらする手を思わず掴んだら、
自分の膝に、すぐに引き寄せられる。
考えもしなかった先生の行動に驚きの声が出た。


「…ん」


手の甲に軽く触れるだけの唇が離れたあと、
先生の満足そうな声が聞こえてきて
あたしは初めて顔が熱くなっていくのを感じていた。


ばくばくと心臓が早鐘を打つ。

なんだこの感覚は。

知らなかったこの感情は、
何ていう名前なの?


「…紺野」


寝起きのまぶたから覗く、ふたつの目が
いつの間にかあたしに向けられていた。


「先生?」


戸惑いながらそう呼んだあたしに、
先生は少し満足そうに答えた。


「顔、真っ赤だよ」


くすくす笑う先生は、
やっぱりズルい大人だった。

顔を両手で覆い隠しながら、
指の隙間から先生を見る。

どうしよう。

あたしの頭の中は
その言葉で溢れかえっていた。


どうしよう。
この悪い大人に捕まってしまう。

この人はどうせ遊びなのに。
あたしだけが、本気にさせられる。

どうしよう。


そんなことを考えながら、
顔に当てた手をゆっくり剥がされて、
体を起こした先生の顔がまた近づいてくる。

その顔が、少し意地悪く微笑んでいるのを見たとき
この勝負は初めからあたしの負けなんだと
そう思わざるをえなかった。


           
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