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「朱里いますか?」

隣の隣のクラス。
1-D

帰りの時間になっても迎えにこない朱里を
不思議に思って、あたしは彼女を探しに来ていた。


「朱里?ああ、春名か。
なんかケバいのに連れてかれてたよ」


ケバいのに連れてかれてたよ。


「どこに?」


知らない、と男の子が答えるのがわかって
あたしは返事も聞かずに走り出した。

どうしよう。
どうしよう。

さっきと同じ言葉。

どうしよう。
朱里に何かあったらどうしよう。

走りすぎて息が荒い、
汗を吸い込んだシャツが気持ち悪い、
探しても探しても見つからない朱里に
不安だけが募る。


バン!


旧校舎の体育館を、
走り抜ける勢いのまま開け放つと、
中にいた人たちの視線はあたしに集まった。

まんまるの瞳。

それが、朱里のものだと分かったとき、
あたしはその集団に向かって駆け出してた。

「朱里!大丈夫?」

少し赤くなった顔は、
ここにいる人に叩かれたのだろうか。

「まふゆ」

小さな声でそう呟いた声は、
涙で濡れていた。


「何あんた」
「うちらは春名に用があんの」
「出てけよ」
「チクんなよ」
「こいつもボコればよくない?」
「それいーね」


口々にいろんな言葉を発する。


「なんで、朱里が
こんな目に合わなきゃならないの?
朱里があなたたちに何したの?」


あたしは、その集団に向かって吠えた。

あの時は守れなかった。
けど、今なら言える気がした。
大きな声で。


「そいつがうちの彼氏たぶらかしたの」
「そおそお」
「まじ、こいつ最悪だから」


また口々に喋り出すケバい集団に
あたしは頭に血が上るのを感じた。


「そんなの、あんたに魅力がないからでしょ」


あたしがそう言ったとき、
シンと辺りが静かになった。

少し遅れて、またうるさくなる。


「なにこいつ!」
「さいてー」
「ウザいんだけど」
「ちょっと扉しめてきて」


1人がだるそうに、扉に向かう。
その間にも口々に思ったことを
喋っているようだった。

          
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