「朱里は何にも悪くない」

あたしの足は、集団に向かっていく怖さからか
怒りからか、とにかく震えていた。

「あんた達みたいなのがいるから、
朱里はいつも生きていきにくいのよ」

声を発する度に、少しずつ冷静さが戻ってくる。

「朱里は朱里でいるだけなのに。
どうしていつも女はこうなの?

素直で元気な朱里と、ケバい化粧で素顔を隠したり
ステータスだけで男や物を選んだりするあんた達が
同じ土俵で戦えると思ってんの?

男を優先順位の1番にして、
自分の魅力をひけらかして、
そんなことしてなきゃ楽しめないの?」

パンと音がしたのと、
頬が熱くなるのは同時だった。

「うるさい!」

目の前でひとりの女がギャーギャーわめいてる。
何を言ってるのか分からない。

なんだかフワフワして地に足がついていない感覚。

あたしと朱里は踞って、
上からたくさんの足が降ってきた。

汚い言葉と一緒に。

でも、あたしはそんなことどうでも良くて
目の前で一緒に踞る朱里の手をぎゅっと握った。


「朱里、ずっと助けてあげられなくてごめんね」


一瞬驚きからか目を開いて
それから、ふるふると首を緩く振る朱里の目から
大粒の涙がこぼれ落ちた。

あたし達はやっとあの中学の前のふたりに戻れる。

朱里の背中から張りつめたものがなくなればいい。


覚えているのはそこまでで、
次に目を開けたときに写ったのは
白い部屋のなか、涙目であたしの顔を
覗きこむ朱里の顔だった。

所々に包帯を巻いているあたし達は、
その腕や足、顔にある勲章をお揃いだねと、
涙が出るまで笑いあった。


笑いが収まると静かに、恋をしたいな、と言った
朱里に応援するよと笑いかけて、
窓から見える夕陽に、早くそんな人が現れますようにと
願いを唱えた。

             
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