朱里が自分の病室に帰り、静けさが帰ってきた。

ふぅ、と息を出すと
ひとりなんだな、としみじみと感じた。

朱里のところには、
クラスメイトがお見舞いに来たという。

あたしのところには、きっと誰も来ないんだろう。

大きな窓の外、
空を飛ぶ鳥達の自由が羨ましかった。

「あたし、ひとり」

ぽつりと呟いた自分の声が
引き金になった。

パタパタ白い布団の上に、染みが広がっていく。


きっと、朱里のところは
たった2日の入院だけど両親も兄弟も
たくさんお見舞いにくるだろう。

あたしには
お見舞いに来てくれる家族なんていないのに。


ぽっかりと穴の空いた心に
ひゅーひゅーと冷たい風が吹き抜けるのを感じた。


「あれ」


がらっと無遠慮に開けられた病室のドア。

次いで、間の抜けた声が聞こえた。


ばちっと合った4つの目は驚きに見開かれる。


「……先生?」


自分の声が思ったより弱々しくて笑えた。
なんだか媚を売っているみたいに
甘い声だったような気もする。

スタスタと近づいて来た先生は、
不躾にあたしの顔を覗きこむ。

「なんで泣いてる?」

いつもより優しい声に、
女の武器は涙なんて言葉を思い出した。


           
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