パイプ椅子に座る先生は学校の外だからか、
少し雰囲気が違った。

お見舞いだ、と置かれた
フルーツの盛り合わせは高そうだ。


「どれ食べる?」


指差された籠のなかには
色とりどりの果物があるけど、
今は食欲がなかった。

それを首を降って伝える。

「先生なんでここに来たの?」

1番の疑問を口にして先生を見れば
だるそうに動かした腕にある時計を目で指した。

その時計が指すのは12時20分。

いつもだったら、
先生のところでお茶をしている時間だ。

「それに、担任だから」

付け足された言葉の方がここに来た理由だろうに
そう言わなかった先生は優しいと思った。

「けがは?」

いつも通りの言葉足らずな先生は、
昨日ぶりなのになぜか懐かしく感じた。

「全身擦り傷だらけだけど、軽いよ。
重くて打撲かな。
入院も検査入院だし、明日には退院です」

両腕や足、自分の体を
眺めながら言った後視線をやれば、
パイプ椅子がぎしっとしなる音をさせながら
先生が立ち上がった。

そこに香ったのはいつもの先生からはしなかった匂い。


「先生って…タバコ吸うの?」


ベッドサイドに立つ先生は、
さぁ?と言いながら身を屈める。

近づいて来た顔に、反射的に目を閉じた。
これで2度目のキス。

「タバコ吸ってるやつと
キスすると苦いんだってさ」

離れて早々そんなことを言う先生は
イタズラっ子のような顔で笑った。


ぺろり、自分の唇をなめてみる。


その様子を先生が
じっと見ていることに気づいてた。

「…分かんない」

先生が、さっきとは違う
大人な顔で笑うのが見えた。

「もう1回?」

そういって重なった唇は
いつもより確かに苦い気がした。


気がつけばいつの間にか西陽が病室を照らしてて、
時間が思ったより
たくさん過ぎてることを教えてくれた。


「先生」

そう言えば、ただ頷くだけの先生に安心して
あたしは重くなったまぶたを閉じた。


          
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