あ
1
あたしは足りない人間だ。
何が足りないのか、
考えても考えてもその答えは見つからない。
だからあたしは埋めるのだ。
他人から必要とされることで
その隙間を無理矢理にでも。
そうすれば仮にでも、一時的にでも満たされること
あたしは知ってしまったから。
――――――――――――――
「おーい、学級委員。手伝ってくれ」
やっと午前の授業が終わり、
ざわざわとみんながお昼のお弁当を広げるなかで、
担任教師の声が教室に響く。
それを聞いて、お昼を食べるために丸く座った
あたし達グループのリーダー格の美弥が1番に口を開いた。
「また雑用?」
「たまには断りなよ」
「人使いあらいねー」
「行ってらっしゃーい」
それに続いてどんどん喋りだす周り。
食べ始めたばかりで、
まだ軽くしか手の付いていないお弁当を
軽く片付けながらあたしは愛想笑いを返し、
小さく行ってくるねと言い置いて教室の入り口で待つ
教師の元へと向かった。
「いつも悪いなー」
だるそうに入り口の壁に寄りかかり
待っていた男がいつも通りそう口を動かした。
そんなことは微塵も思っていないだろうことは
声の表情で分かった。
「男の方の学級委員はどうした?」
長めの前髪の奥から、ちらっと教室内を見回しながら
軽くあたしに尋ねる教師、笹塚は今年で32歳。
教師になって10年くらい?
落ち着いた雰囲気といったら聞こえは良いけど
ただの面倒くさがり屋だと思う。
動きはいつも鈍くて気だるげな雰囲気を纏う男だ。
「分かりません」
あたしの間髪いれない簡素な答えに、
そうか、と小さく頷くだけで
いつも通りただ形式上聞いただけのその問いに
それ以上の追求はなかった。