あ
「あー、美味しかった!また来ようね!」
ふくれたお腹をなでさすりながら、
朱里は満足したように言った。
「そうだね、美味しかった」
暗くなった道を歩きながら、
2人で他愛ない話をたくさんした。
それでねー、ときゃっきゃと話し続ける朱里。
こんなに無邪気で愛らしいのに、
どうしてみんなそれを受け入れて、
愛せないんだろうと不思議に思った。
朱里は中学の時から、体に見合わない量の食べ物を
たくさん食べるようになった。
きっかけは中学のボス的存在の女子の一言だったと思う。
思春期で男と女の区別が
はっきりとしだした時期のことだった。
『朱里っていつも男に媚ばっか売ってバカみたい。
お母さんが夜働いてるからそう躾られてんの?』
その一言の後、
嘲笑を含んだたくさんの笑いが教室を包んだとき、
朱里の手のひらは白くなるほど強く握られてた。
意識しだしたせいで普通に接せられなくなった自分達を
認めるために、朱里を貶めた。
小さい頃から朱里を知ってるあたしは、
みんなが見ている朱里がそのままの朱里だと知ってた。
昔から変わらない。
でも、あたしは言えなかった。
みんなの前で朱里は朱里だ、と
そう言いきってあげられなかった。
帰り道、俯いて涙を流しながら帰る朱里の背中を
ただ優しく擦ってあげることくらいしか
あの時のあたしにはできなかった。