僕の初恋
壁と天井との境目には玄関と同じようにしめ縄が掛けられており、まるで何かから部屋を守っているようだ。
キヨノさんは手際よくお茶の準備をし、僕のコップに入れてくれた。
部屋には女っぽいものは何一つとしてなかった。
「変わった部屋でしょ」
キヨノさんが言った。
「はい、少し。でもなんかシュールな感じでいいですね」
僕はお茶を飲みながら、できるだけ平気そうに言った。
「ふふっ、そんな風に言ってくれるのは坂本さんだけですよ」
キヨノさんが笑った。
そして話を続ける。
「うちの実家は出雲(いずも)のほうにある古い家なんです。色々な迷信があって、今でもそれを信じている人がたくさんいるみたいで・・。この部屋のまじないみたいなのも、うちの父がやったんです」
「そうなんですか。ちなみに、これにはどんな意味があるんです? 」
僕は単に興味半分で聞いた。
「父が言うには、黄泉狐(よみぎつね)から守るためのまじないらしいです」
「よみぎつね? 」
「私は黄泉狐(よみぎつね)に憑(つ)かれやすい体質らしくて・・。ほんと、ばかばかしいでしょ」
キヨノさんは少し恥ずかしそうに言った。
僕は正直嬉しかった。
キヨノさんみたいに頭も良くてきれいな人と自分は釣り合わないと思っていた。
でも、いろいろ変なキヨノさんとなら釣り合うかも・・。
この時の僕は、そんなせこいことを考えていた。
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第四話へ続く
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