僕の初恋


12時を回って、家に帰ろうとコンビニを出ると仙崎がいた。

止めた自転車の後ろにすわってこっちを見ている。

仙崎まだ帰ってなかったんだ。

いったい何してんだ?

「今日は例の人来ないのかよ? 」

仙崎が自転車から立ち上がりながら聞いてきた。

「なんか友達のところに泊まってくるんだって」

「へえっ。せっかく顔見てやろうと思ったのにさ」

残念そうに仙崎が言う。

こいつ、わざわざそのために待っていたのか。

「見てどうするんだよ? 」

僕はちょっとむっとした調子で聞いた。

「今日はアタシが家まで送ってやるよ。後ろ乗れよ」

僕の質問に答えずに、仙崎はそう言って自転車にまたがった。

「普通そういうのってバイクだろ」

僕は思わず突っ込んだ。

相変わらず突然押しが強いので面食らってしまう。

ふんっ。

仙崎が首を振って自転車の後ろを示す。

僕はしぶしぶまたがった。

仙崎のマンションと僕のマンションはすぐ近くだった。

「坂本はその女の人のことが好きなのか? 」

仙崎が自転車をこぎながら聞いてきた。

「そんなことは無いけど・・」

僕は一瞬どきっとしたが、そんな曖昧な返事をした。

「ならあんま関わんないほうがいいんじゃないの? 」

「えっ? なんで? 」

「・・なんかそんな予感がすんだよ」

仙崎の声が心なし小さくなる。

「はぁ? 」

僕はまたもや唐突でわけが分からなかった。

「アタシ、昔から勘とか良くってさ。坂本、アンタ最近よくない感じだよ」

仙崎の口調は真剣だった。

それが少し僕を不安にさせる。

「よくない感じって・・? 」

「空気っていうか、なんていうか。なんか以前と違ってよくない感じなんだよ。前の坂本はもっと元気できれいな感じだったけど、最近の坂本はにごっている感じで・・。ああ、うまく言えないっ」
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