僕の初恋
「はい、それも水準以上です」

実際に森本紀代乃の身体能力は素晴らしかった。

普段はそうでもないのだが、催眠状態に入った際の力や反応速度がただ事ではない。

もっとも、その反動でいつも動けなくなるのだが・・。

「仕上げはいつ頃になるでしょうか? 」

「はい、あと半年もあれば」

「ふむ、半年・・。少し長いですなあ。先代は、もうもちそうにないんですよ。もって、あと3ヶ月が限度」

3ヶ月で精神レベルを0付近まで持っていくのは少し困難に思えた。

これまでの生活と、催眠状態での刷り込みにより、生きる気力を奪ってはいるが、やはりあと半年は必要だ。

「3ヶ月は少し難しいかと思われます」

私は正直に言った。

その時、森本のそばの空気がゆれた。

見るとすぐ横に男が立っている。

男は森本に小さな声で何かを伝える。

何か報告に来たようだ。

森本はしばらく考え込んだ後に、口を開いた。

「ふむ、そのようなものが邪魔(じゃま)をしているとは・・」

そして、続ける。

「3ヶ月は難しい・・。先生がそういうなら、そうなのでしょう。ではその男が役に立つかもしれないですね」

「その男・・とは? 」

「いやね最近、娘にはどうやら好きな男がいるようなのですよ」

森本はおかしそうに、くくっと笑う。

「好きな男が? そんなまさか・・」

私は少しおどろいた。

森本紀代乃にほどこした催眠には他人と交わらないように、というものもあったのだ。
< 31 / 99 >

この作品をシェア

pagetop