イジワルな旦那様とかりそめ新婚生活
今朝までお祖父さんの事なんて忘れていた薄情者なんです。

本当の嫁でもないし、お礼なんて言わないでください。

罪悪感を感じてそのまま黙り込むと、雪乃さんが過去の刹那さんとのエピソードを話し出した。

「そう言えば、私が中学生の時にね……」

海で溺れそうになった時刹那さんが助けてくれたとか、バレンタインにチョコをあげたら目の前で食べてくれたとか、勉強を優しく教えてもらったとか、小さい頃はお泊まりして刹那さんのベッドで寝ちゃったとか……。

刹兄さまが、刹兄さまが……。そのフレーズ何回聞いただろう。

ああ、もう……いいです。お腹一杯です。

胸の中がモヤモヤして、聞いていると段々イライラしてくる。

雪乃さんの笑い声が耳障りで仕方がない。

息苦しい。これ以上、ここに居られない。

もうマンションに帰りたい。

「……あの」

壁と同化していた私が思い切って声を出すと、やっと存在を認知されたのかみんなが私の方を見た。
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