ふわふわふるる【BL】
ふわふわふるる
一つの恋が終わろうとしていた。
告白する勇気もなく。
それは十八歳の春だった―――
~♪仰げば尊し~
遠くで“仰げば尊し”の合唱が聞こえる。
顔を上げると、半ドーム型の天井の体育館が桜の樹の隙間から見えた。声はそこから聞こえてくる。
卒業式に桜が咲くのは珍しかった。―――そして同時に雪も降った。
何てことない。雪だと思っていたら、淡いピンク色はいっそ白に近くて、まるで雪景色を思わせていたのだ。
桜なんて嫌いだ。好きなヤツとこの日を境に永遠に会えなくなるって思うと、この光景が一生恨みがましいものへと変化する。
いっそ雪のように消えてしまえばいいのに。俺の恋心と一緒に―――
体育館を遠目に見ながら、俺はiPodの電源を入れた。
仰げば尊しから逃げるように―――
卒業式をエスケープすることに決めたのは、同じ列で並ぶ”あいつ”の後ろ姿を見たくないから。
サラサラの栗色の髪。全体的に華奢な体つき。まるでミルクババロアのような白い横顔が
一点を集中して見ている。
髪と同じ色素で淡いビー玉のような瞳で―――
俺たちの卒業と同時に他校に転勤になる英語教師を―――見つめている。
濃いグレーのスーツは細身で、パリッとしたワイシャツをオシャレに着こなしているそいつ。
女子生徒から絶大な人気を誇る、同性からも慕われて、言ってみれば高校のアイドル先生だ。
銀に近い髪色に、耳にいくつも開いたピアス。着崩した学ラン。見た目も中身も粗野な所謂『不良』のレッテルを貼られた俺とは正反対。
英語教師みたいな爽やか系が好みなのか。
絶望的だぜ。
でも想像の中でも俺はその姿をじっと見つめるしかないんだ。
「写楽せぇ」
呟いた言葉は、桜の舞う空に吸い込まれた。
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