ふわふわふるる【BL】
俺の失恋ソングが仰げば尊しになる前に―――この記憶を耳から消し去りたい一心だった。
耳が壊れるほど激しいロックでも聞こうか。いや、ここはヒーリングミュージックにでもするか。ちょっとは癒されるかも。
いやいや、余計暗くなりそうだ。流行りのアイドルのバカっぽい歌でも聞けば、こんな自分を「何やってるんだ」と言って笑い飛ばせるだろうか。
色々考えながらもスイッチを入れ、最初に流れてきたのは―――
邦楽女性シンガーの古い歌だった。
何でこんなん入ってたんだ?
ああ、そうだ。レンタルCDが5枚で1,000円だったから適当に借りたんだ。いわば『おまけ』的についてきたその曲―――真剣に聞いたのははじめてだった。
優しい歌声は―――”あいつ”を連想させる。
ヤバイ。今きっと何聴いても”あいつ”を思い出すんだろうな―――
柄にもなく洟を啜っていると
「何聴いてるの?」
ふと、座り込んだ俺の頭上に影が落ち、顔を上げて俺は目を開いた。
目の前に俺の好きなヤツ―――『如月 伸一』が居たからだ―――
そう、俺の好きなヤツは男。俺の好きなヤツが好きなあいつも男。
だから二人とも気持ちを伝えられないでいるんだ。
如月のミルクババロアのような白い肌の目の周りは僅かに桜色をしていた。
泣いていたのだろうか。
”あいつ”を想って―――?