―ある日―

たいひ

ヒラヒラ手を振って見送る竜彦さんを残して、トラックは走り出す。

「………」
「どした?」
「えっいえ、なんでも」
「そう」

………。
私は、トラックに乗り込む前に竜彦さんと話た事を、思い出していた。

……………

「小夜ちゃん、ケイを頼むよ。あいつ、クッソ真面目で几帳面なんだけどさ、どっかヌけてて、妙に無茶するからさぁ。危なっかしいけど、みててやって欲しいんだ。俺は付いてけないし、それに、多分、小夜ちゃんなら……」

そこまで言って目を伏せる。それから、自嘲するように笑って、

「いや、なんでも無い。とにかく、ケイを、よろしく頼む」
「竜彦さん……」

そう言って頭を下げた竜彦さんは、なんだかとても痛く軟らかくて、まるで親のそれのように私には映った。

……………

「……あの、圭さん」
「何?」
「えと、竜彦さんと圭さんって……その」
「ん?……ああ、何んてんだろうなコウユウの。ダチ、とは違げぇし」

「先輩…なんですよね」
「ああ、でも竜彦は三年を2回やってるらしいから」
「三年を2回?」
「そう。どんな理由かは知らねぇけど」

そうなんだ…。
それで、車とか運転出来るんだ。

………。
あえて人の事情に突っ込まないのは、正直、うらやましい。
女にそれは無いから。
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