―ある日―

圭の行動(夏休み前)

「ただいま」

「おかえりなさい。今日は遅いのね」

「うん。帰りに先輩に会ってさ、一緒に飯食って来たんだ。母さん、これから仕事?」

「そうよ。今日は遅出なの。鍵掛けてくから圭、寝ていいわよ」

「わかった。いってらっしゃい」

リビングを出て階段を上がる。

「……圭!」

「何?」

「あっ……いえ、なんでもない。いって来ます」

「…うん。気をつけて」

母さんは、あの男がオレにどんな事をしているか知ってる。

いつもどこか申し訳なさそうな顔してオレを見る。

ぎこちなく、笑って。

でも結局、ああやって言い澱む。

放任なんだ。

結局、母さんはあの男が好きで恐くて何も言わない。

ずっと昔から。

オレは見放されてる。

知ってるから。

わかってるから。

もう、ガキの頃みたいに痛くない。

虚しいだけ。

だから、そんな面しなくていいよ。

それに……

それをオレに求めるのも、筋違いだろ。

無理だよ、そんなん。

ごめんね。

母さん。

オレは……


餓鬼だ。
< 55 / 106 >

この作品をシェア

pagetop