―ある日―
親父が死んでから、母さんは笑わなくなった。

閉じこもって、仕事も休みがちになって。

オレは、野球を辞めた。

母さんの代わりに、家の事を全部、やるようになった。

多少はやっていたから、そんなに苦は無かった。

やっと家から出るようになったのは、親父が死んで1年が経つ頃。

それから半年近くして、あの男を連れてきた。

「圭、あなたにも、お父さんは必要でしょ」

オレの為?

だったらいいよ。

オレは母さんが居ればそれで。

でも、あの男が来るようになって、母さんはよく、笑うようになった。

オレに必要なんじゃなくて、母さんに必要なんだ。

そう思った。

……オレじゃ、なくて。

ね、母さん。

オレと二人では、駄目だった?



オレじゃ……駄目だった?



あの男は、優しくて、本当にいい人だった。

母さんを大切にすると、言ってくれた。

母さんが、笑ってられるならそれでいい。

オレは、結婚を承諾した。
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