君のいいところ、1つしか思いつかない。
暗かった空からはポツリポツリと雨が降り始めていた。
じめっとした雨の匂いがする。
「…帰ろう」
結局、ここで逃げてしまうからあたしは意気地なしなんだ。
そう思うだけじゃ解決しないけど、それでも今日はどうしたって図書室の重いドアを開くことはできないと思った。
雨だからか、筋トレをする運動部の声が聞こえる。
「っ、」
人気のない廊下。
前から歩いてきたのは、晴だった。
久しぶりに見た晴の姿に、やっぱり好きだなぁと思った。
でもそう思っているのはあたしだけだって思ったら、やっぱりどうしても寂しい。
怖くて、目が合う前に下を向く。
2人の距離が近付くにつれて、あたしの心臓の音が早くなる。
部活の掛け声が、やけに遠くに聞こえた。
すれ違う瞬間は、息もできなくて。
ふわりと香った晴の香水に、泣きそうになった。
晴が通り過ぎてから、はぁっと吐き出す息に、自分がどれだけ緊張していたのか思い知らされる。