君のいいところ、1つしか思いつかない。



「俺、やっぱり果歩のことー…」




「っ、やめてよ、何言ってるの。
私は蓮の先生なのよ?」


「でも、ずっと前から…」


「…ごめんね。
私、何を言われても蓮を好きになることはないら」

「っ…」





その瞬間開いたもう一つのドアに、出て行った先生。

ハッと我に返って、教室の中を見た。




「っ、」




それは私が今まで見た中で、一番綺麗な人だった。


少しうつむいた彼の黒髪を、窓から入った風が揺らす。

髪で隠れた表情は見なくてもわかる気がして。




篠宮蓮と先生の関係とか、篠宮くんの気持ちとか、私はどうすればいいのかとか、そんな考えがぐるぐる回る。


その瞬間。

突然振り返った彼と、隠れる隙すら与えられなかった私は目が合ってしまう。



驚いた表情の彼に、ドクンと心臓が跳ねた。




「あ、の…その…」




盗み聞きするつもりじゃ、なかったの。

そんなこと言ったって聞いてしまったことには変わりない。


どうしよう、と視線を泳がせることしかできない私に、彼は



「…今の、誰にも言わないで」



少し掠れた声でそう言った。







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