君のいいところ、1つしか思いつかない。


「言うわけないっ…けど…」



けど、



「…大丈夫?」



大丈夫なわけ、ないのに。
そんなことが言いたかったわけじゃないのに。

篠宮くんの表情があまりにも切なかったから。




「あー…うん」


「知り合い、なの?」



このまま終わるのが嫌で、思わず聞いてしまった。




「…関係ないだろ」

「あ…ごめ、ん」




そうだよね、今聞かれたくないよね。
無神経なこと言っちゃった。


「ごめんね、絶対言わないから安心して」




それだけ言って、篠宮くんに背中を向けて教室から出る。




「岸田さん」



思いがけず呼ばれた名前に、ビクッとして振り返る。



「何かしに来たんじゃないの?」


「…あ、忘れ物…」




すっかり頭から抜けていた、ロッカーの中のジャージの存在を思い出す。



「ごめんね、変なもの見せて」




それだけ言って何もなかったみたいに教室を出る篠宮くんの背中は悲しそうに見えて、だけど呼び止めることもできずに誰もいない廊下を見つめていた。






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