この地に天使が舞い降りた-ANGEL-

「なっ……!? 俺は別にゲイじゃねぇし葉太だって好きじゃねぇよ!?」

「そんなことくらいわかってるし。照れるとあやしいっていうか気持ち悪いわよ」

冷ややかに言った舞の言葉をよく理解できていないのか、クロエは「んん?」なんて言って自分で笑った。

「やッぱ日本語ッてマジむずいわー」

「そこまで使いこなせてれば完璧だろ。マジもんのJKかよ」

先程から話題には出ているが言葉を発さなかった葉太が言った。
その声は鼻声だった。花粉症だった。

「アレ? ヨータはかふんしょで休むってマイがゆってたけどだいじょぶなの?」

「それデマだから。さすがに入学式は休まないよ」

言いながら舞を睨んだ。当の本人はいつもと変わらず涼しい顔をしており、さらにイライラを募らせる。

「で? 本題は可愛い新入生の話だけど?」

「あ」

いっけねと雪が舌を出した。
他のヤツから見たら可愛いんだろうけど付き合いの長いこのメンバーからしたらウザい以外のナニモノでもなかった。

「葉太、アンタ唯一の一年なんまからその可愛子ちゃんに接触してよ。で、“カンナ”に入るよう伝えて?」

「ぜってーヤダ」

光速で断った。

「なんでだめなん?」

「可愛い可愛いとか、そーやって騒がれてるヤツほど微妙なのが多いんだよな」

「だからイヤって……。とりあえず、名前だけ伝えとくな。さっき友奈(ゆうな)にメールで情報もらったんやけど、えっと……。
“立花薫”ちゃんって言うらしいわ」

どーせ、と葉太は呟いた。
他のメンバーも特に期待はしていなかったが……それは、数十分後の入学式で、色々な意味で壊されることになる。

* * *

『……新入生代表、立花薫』

「Pretty……He look just like an angel!」

クロエが感激したように、小さく叫んだ。
彼が締めの言葉を言った瞬間、沸き上がる歓声に拍手。
それすべてが薫に向けられていた。
全校が出席する入学式で、薫は新入生代表の挨拶を読んだ。
これは毎年成績が一番の者が読むが、今年は勿論のこと薫だった。
サボらず出席した雪、舞、クロエ、優雅、葉太は薫のその容姿にぽかんとする。
……驚いたのは容姿だけではなかった。
彼の着ていた制服は男のモノだったのだ。

「あ、あれ? ……男?」

雪が確認にとごしごしと目を擦る。何度擦っても同じ。ズボンは消えない。
ぺこりと一礼してステージから下りた薫だったが、何故かさっきから「アンコール!」が止まらない。
何故だ。
薫は恥ずかしそうに少し笑うが、……

「(コイツら馬鹿なんじゃねぇの?)」

天使のような笑みの裏でそんなことを考えているなんて、勿論誰も予想していなかった。

「……カッワイー」

雪が呟く。
カンナは男子禁制のチームだが、彼ならいいかもしれない。それくらい薫は可愛かった。

「いやアイツ男だろ?」

「んなことわかってんねん! ……オイ葉太テメェ、まさか“琥珀”に入れたいとか言うんちゃうよな? な?」

「…………」

「オイ」

はぁとため息をつく。

「琥珀なん入れたらゲイの優雅くんに襲われてしまうかもやろ? あんなかわいい子をそんな危ない目に遭わせたらアタシらどう責任とったらいいん」

「いやだからゲイ違うって!」

顔を真っ赤にした優雅が葉太見ながら首を横に振った。
ここにそういうのに偏見を持つものはいない。が、からかいやすい優雅をからかいたくなってしまうのは全員共通だった。

「大丈夫よ、優雅。私そういうのに偏見持ったりしないわ」

「ねぇだから違うって……!」

先程から後ろでぎゃあぎゃあとうるさい。そんな優雅たちを薫が見ていたなんて、優雅たちは知らない。

「(俺も、あの人くらいかっこよかったら)」

こんな風に嫌な騒がれ方をすることなんてなかったのかな。

* * *

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