この地に天使が舞い降りた-ANGEL-
「俺と突き合ってくれ」
決め顔で目の前の男子は言った。
「……あ?」
今明らかに漢字変換がおかしかった。それを感じとった薫は、きっと睨む。
「おっとごめん思わず本音が」
「うるせ。誰だよテメェ」
裏庭は誰もいなくて騒がれなくて安心できたのに。
入学してから2日は教室で食べていたが、廊下には薫を見に来た生徒で溢れていて、薫はクソほどに食べづらかった。
だから裏庭に来た。
裏庭はぽかぽかしてて桜も綺麗で最高だった。
だからこんなチャラチャラしたヤツに来られたらマジクソ迷惑っていうか。
「ごめんごめん。オレは二年の雨間凉斗(あめますずと)! よろしく」
「で? なんの用?」
「先輩だと知ってもタメ口なんだね!」
凉斗は面白そうに笑う。それと対照的に薫は不機嫌だ。久しぶりにこんなにウザい人に出会った、という目をしている。
「キミを、“琥珀”に勧誘しに来」
「オイゴラ凉! テメェ抜け駆けしてんじゃネェ!」
凉斗の台詞に被せた少女ーー雪ははどこからかやってきた。
「わ、ゆきんこ! ナゼここに!」
「誰がゆきんこじゃボケナス!」
一気に騒がしくなった裏庭。
薫にとっては迷惑以外のナニモノでもない。自然に整った眉を歪ませた。
「……あのさぁ」
薫が声変わり前の少年の声で不平をもらした。
「あっ、ごめんなぁ、薫くん……って、うわ!」
薫の顔を間近で見た雪は、絶句した。
……なんだこの美少女、いや、美少年は。
きめが細やかすぎる餅肌は薄ピンクに染まり、まるでチークを軽く塗ったよう。
控えめに整った鼻、バランスのとれた綺麗な形の唇……。どこを取っても天使のようだった。
「(……ヤバ)」
入学式の時は遠目だったけど、こう、近くで見るとヤバい。
何がヤバいって。色々だ。
「……あの、誰ですか?」
凝視し過ぎていた雪を怪しく思った薫はもっと不機嫌な声色で言う。
それに、「あ、ごめん。アタシは雪」と軽く謝ると、もう一度まじまじと見た。
……可愛すぎ。
ヤバいアタシ今日化粧ノリ良くなかったのに……恥ずかし、と顔を赤く染めると、もう一度凉斗に向き直った。
「薫くんはアタシたち“カンナ”がもらったから。汗クサイ男共は引っ込んでろよ」
「あぁ? じゃあカンナはなんのにおいだっつーんだよ? 言ってみやがれ」
「それは……フローラルよ」
「ケバい香水の匂いじゃなくてか? ……まあ、いい。とりあえずウチのリーダーが薫くんのこと気に入っちゃったみたいだから、薫くんは“琥珀”のってことで」
「……あの、全っ然意味わかんないんですけど」
話の中心人物のハズなのに意見はガン無視されている。そんな状況に薫は腹がたっていた。
「あ、薫くんは“カンナ”と“琥珀”どっちに入りたいん? 勿論カンナだよな?」
「ナニソレ」
初耳だ。
それを知っているという前提で話をされても困る。
「まぁ、簡単に言うと不良チーム的な? そんな深く考えなくていーよ」
不良チーム……。と、凉斗が言った言葉を頭の中で繰り返す。さっきまでゆっくりとお昼を食べていたハズなのに、何故に自分はどちらの不良チームに入るかという選択を強いられているのか。
「ごめんなさい無理です」
答えは勿論どちらもNOだった。
何故自分がそんな意味のないチームに入らなくてはならないのか……考えるだけでムダ。
「え? そういうこと言う? カンナに入れば女子ばっかだからハレムよ?」
「ワァとても魅力的ですね」
「琥珀に入ればみんなからキャーキャー言われるよ」
「残念ですが既に経験済みです」
これ以上注目を浴びるのはこりごりだ。
そういう思いで二人の意見を一蹴する。