愛したのが君で良かった
『俺、さっきの食っていい?』
………え………?
聞き間違いだと思った。
私は思わず顔を上げると、そこには少し顔を赤らめて、照れくさそうにしてる悠哉の姿があって。
『のりさ、ずっと気づかなかったの?』
…なに、言ってるの…?
悠哉の言葉の意味が分からないよ……
私、分かんないよ……
『俺、ずっとのりが俺の分を作ってきてくれるのを待ってたんだけど?』
なにそれ……
完璧に私のこと“お弁当係”とか思ってるじゃん…
『……私、悠哉のお弁当係じゃないし……』
『何言ってんの?
俺、一度もお前のこと、そんな風に思ったことないんだけど?』
じゃ…なんだって言うのよ…?
“お弁当係”じゃないなら、私はあんたのなんなのよ?
『……でも、いつも私のおかずをつまみ食いしてくじゃん……
それで自分の分を作ってきてくれるのを待ってたとか…完全にそういうことじゃんか…』
うぅ…こんな男のために泣くとか、なんかやだよ…
私は右手で涙が溢れている目を覆った。
もったない。
もったない。
……もう、訳分からん…
『俺は、お前が作ったやつだから食いたいわけ』
…は?
だから、それを“お弁当係”っていう…
『まだ気付かないの、俺の気持ちに?』
悠哉は静かに、そう問いかける。
怒ってる…わけではなさそうだけど、でも、それくらいの気迫が感じられる顔で、私を見つめてるから。
私は、首を傾げた。
悠哉のその続きの言葉を、悠哉の答えを聞きたくて。
『ばーか!
好き、って言ってんだよ、鈍感!!』
好き…?
え、
今、悠哉が“好き”って言った?
え…悠哉が……
え……私のこと…を?
『えぇぇーーー!!!』
私の声は叫びとなり、廊下、いや近くの教室にも響いたようで、その叫びを聞いたであろう人たちが私たちのいる廊下のほうに集まってくる。
何事?とでも言わんばかりの顔をしたギャラリーが増える中、悠哉はクスッと笑った。
『ね、のりは?』
あの、いつもの余裕綽々な顔をしながら、悠哉は私の答えを聞き出そうとしている。
『……え…でも…私、こんな体型で、それに……なんていうか、悠哉とは合わな』
『それ、誰が決めたの?』
私の言葉に、悠哉は自分の言葉を被せて、そう言った。
『…誰って……そんなの誰が見ても分かることっていうか…』
言いながら、落ちていく自分に気がつく。
『俺が聞いてるのは、誰かの意見じゃなくて、のりの気持ちなんだけど?』
私の気持ちは…
そりゃぁ…あの日から。
入学式の日、自己紹介のあの時から、私の気持ちは決まってる。
悠哉が好き
『……私は………』
私たちのやり取りで、周りの人たちもざわめき始める。
そうだよ…
これが現実だよ…
私の好きを届けたいけど、でも。
私なんかを好きとか…みんなから悠哉への好感度が下がって…
『のり』
でも。
悠哉はまるで“そんなの気にしないよ”って言わんばかりの顔をして、私の名を呼ぶ。
…いい?
悠哉の好感度を下げてしまうようなデブで、性格もダメ子、そんな奴だけど。
でも、悠哉に“好き”って伝えてもいいですか?
『………………好き』
やっと出た言葉はすごく小さくて。
周りのざわめきの中で悠哉に聞こえたかどうかは分からないけど。
それでも、悠哉は笑ってくれたんだ。
『悠哉のことが好き』
もう一度伝えた気持ちに、悠哉は、
『知ってる』
そう、あの余裕綽々な顔をして言った。