愛したのが君で良かった
声の先に目をやると、そこにはすました顔をする、一人の男の子。
椅子に座っていても分かる、彼が他の男の子たちよりも身長が高いこと。
『……へ?』
私をからかっていた男の子の一人がそう言った。
『あ、ごめん、嘘、俺53キロ』
隣の席の男の子は、爽やかな顔をしながら、そう言ったんだ。
私より大きいのに、私より軽い…
男の子よりも重たい私はいったい…
『女の子に体重と年齢を聞くのはナンセンスじゃね?
モテたいなら喜ばせることと傷つけることの違いをきちんと分かってたほうがいいよ?』
その時の彼の顔。
余裕綽々でそう言った彼の顔。
私はその言葉に心臓がドキンって大きく鳴った気がした。
気のせい…かな?
でも、私はその人を見つめ、目が反らそうとしない。
『…お前みたいなのに言われるとなんかムカつくけどな』
私をからかってきた男の子がそんな風にいうのも分かる。
だって、この人、めちゃくちゃカッコイイもん。
こんなにカッコイイ人は現実の世界にはいない、そう思ってたし。
それに、こんなに目がきれいで、そしてこんな台詞をサラリと言ってしまう人も現実の世界で初めて会った気がする。
『おーい、次』
話に夢中になっていたところで、担任が隣の席の男の子を見つめ、そう言った。
その人は立って、そしてあまりにも透き通るような声で自己紹介を始めた。
『柳 悠哉です、どーぞよろしく』
簡単な一言、それでも彼の容姿に、教室にいる女の子達の目が輝き始めた。
“カッコイイ”
“めちゃタイプー”
様々な言葉が飛び交う中、彼は静かに椅子に座った。
そして、未だ彼を見つめたままの私の視線に気付いたのか、
『あんま気にすんな』
そう、笑って言ってくれた。
多分、あの時、私は柳 悠哉のことが好きになった、そんな瞬間だったと思う。
でも、私、分かってた。
ドラマや漫画ならデブでも胸がない子でも可愛げのない子でもハッピーエンドを迎えられるけど、私にはそれは縁遠くて、叶わないって。
だから、恋をすることは無駄。
恋をして傷つくなら、恋をしないほうがい…
『…………うん』
でも、私には無理だった。
そう答えた私に、彼はニコニコと微笑んでる。
それを見た私は、もっと彼をいいな、そう思った。
あの日から、一年…
私の隣には、
ケンカ友達の柳 悠哉がいた。