雨木ちゃんにしては失意な恋
やがて血は止まる。
草野が目を覚ますのは五時間も後のことだった。
「大丈夫? 何か食べたいものはある?」
草野は丁寧に巻かれた包帯を見て、
それから夜になった窓の外を見る。
「いや…大丈夫」
「じゃあおかゆでも作ろうか…」
キッチンに立ったえつこは草野に背を向けているが、肩が小刻みに震えている。
「し、心配させないで…」
今まではリストカットごときで人が、ましてや草野が死ぬはずないと思い込んでいた。
しかし、血を流せば、その量が多ければ
人は死ぬかもしれないということを、
えつこはこの時初めて知ったのだ。
えつこが何も知らないのは当たり前のことだった。なぜなら、誰も彼女に教えてくれなかったからだ。
しかし、その後も草野がリストカットをやめることはなかった…。