落ちる恋あれば拾う恋だってある
修一さんがほんの少し体を離した瞬間「いやー!!」と大声を出した。ここは玄関だ。外に叫び声が聞こえて誰かに気付いてもらいたいなんて僅かな望みをかけた。
私の叫び声に我に返った修一さんは慌てて私の体を解放する。
「夏帆! 夏帆ごめん!」
足の力が抜けて床に崩れ落ちる私を修一さんは痛いほど抱きしめる。
「僕はなんてこと……本当にごめん!」
息をするのもつらいほど抱きしめられても私は言葉を発せられない。
修一さんの声と体温を拒否するかのように体が小刻みに震えてきた。
「はなっ……放してください……」
小さく訴えると修一さんは体を離した。
「夏帆、ごめん!」
何度も謝る修一さんを無視して私は乱暴に乱された服を震える手で整える。その間修一さんは私の様子を静かに見ている。
ブラウスの一番上のボタンが取れてしまった。けれど床を探す気などなかった。早くこの部屋から出たい。
カバンを手に取り、部屋のカギを呆然と佇む修一さんの胸に押し付けた。
「別れてください」
「夏帆……」
「二度と私に近づかないでください。じゃないとこのまま警察に行きます。会社にも今のこと話します……」
これくらいのことで警察も会社も動かないと分かっていても、精いっぱい修一さんを睨みつけた。
「わかった……」
修一さんは短く言うとまた「ごめん」と呟いた。
もう引き留める気がないと判断して私は修一さんの部屋を飛び出した。