落ちる恋あれば拾う恋だってある
駅前の人通りが多い時間なのに椎名さんは構わず私に触れる。そうしてゆっくり体を離すとボタンの無くなったブラウスの襟を首を隠すように重ね、私を立たせて手をつないで歩きだす。
「どこっ……どこに行くんですか?」
私の質問には答えず椎名さんはタクシー乗り場まで私を連れていく。
先頭に停まっていたタクシーに私を押し込むと椎名さんも隣に座る。運転手に行き先を告げるとまた私の手を握る。今度は指を絡ませてきた。
「椎名さん、どこに行くんですか?」
「俺んち」
「え?」
「そんな姿見せられて平静じゃいらんないよ。俺今怒ってるから」
椎名さんは言葉通り眉間にしわを寄せて窓の外を見ている。
「私に怒ってますか?」
恐る恐る聞くと「そんなわけないでしょ!」と真っ赤な顔で私に言い返す。
「ごめん……夏帆ちゃんに怒ってるわけじゃないよ……夏帆ちゃんを傷つけた横山にだから」
「はい……」
「取り敢えず二人きりになれるとこ行きたい」
「でも、椎名さんの家じゃなくても……」
「ホテルとどっちがいい?」
静かにそう言われ私は黙るしかなくなってしまった。
アパートの前に着くと椎名さんが料金を払い、手を引かれて部屋に招き入れられた。
椎名さんの部屋は広くはないけれどキレイに片付けられていた。
靴を脱ぐなり椎名さんは玄関で私の体の隅々をチェックする。
「他は無事?」
「はい……」
落ち着くと痛いと自覚できるところは手首と首元だけだ。
私はリビングに座らされるとお礼を言った。
「あの、ありがとうございます」
「何が?」
「急に来ていただいて……」
深い事情を聞かずに駅まで迎えに来てくれた。今も強引に連れて来られたけれど椎名さんは私を落ち着かせようと人目のないここを選んだ。