落ちる恋あれば拾う恋だってある
「捨ててもいいんだ。事業内容に興味がないから。面接してもらったって、先方は俺の態度を見抜くよ」
求人票の会社は植物を扱う。今まで植物に興味があったことがないし、これからも好きになるとは思えなかった。
「それでも新しい発見があるかもですし、この会社が自分を必要だって思ってくれるかもしれないから……」
そう言う北川夏帆の顔は更に赤くなった。前向きすぎる言葉に俺は笑ってしまった。
「す、すみません……私なんかが生意気でしたね……」
「そんなことないよ」
北川夏帆は恥ずかしいのか更に顔が赤くなっている。
地味女のくせにポジティブだな。本当に君はキラキラしてる。
今日はこの子に何度も笑顔にさせられた。
俺は求人票を持つ手をゴミ箱の上から引っ込め、俯く彼女に近づいた。顔を覗き込み「ありがとね」と優しく言った。
「いえ……」
照れたように笑う顔を見て心が揺れた。
やっぱりメガネをはずした方が可愛いかもしれない。
触れようと思わず伸ばした手の先に彼女はもういなかった。真っ赤な顔のまま俺の横を抜け、早足で階段を下りてしまった。
俺は宙に上げたままの手をゆっくり下ろした。北川夏帆に向かって手を伸ばした自分の行動に動揺した。
地味で暗い男慣れしてない女だろ? 完全に俺の趣味じゃない。いつもなら気にも留めずすぐに忘れてしまうような女だ。それなのに…
…。
俺は階段を駆け下り北川夏帆の後を追った。自動ドアから外に出ても、もう彼女の姿はどこにもなかった。
駅の方かバス停か、それとも自転車か? そもそも追いかけてどうするんだ? 連絡先を聞いたとして、あの子が俺と付き合ってくれるとでも? 今の俺は北川夏帆に釣り合うような男じゃないのに……?
俺は再びハローワークの建物の中に戻ると、窓口で手に持っている求人票の会社を紹介してもらった。
この会社が俺でもいいって思ってもらえたなら……。