落ちる恋あれば拾う恋だってある
「可愛い子がいるって言ったのはお前だろー。だからその可愛い子と楽しくお話ししてんだって」
中田さんは先輩の彼氏さんにテンション高く言い返す。
こっちは中田さんと話しても全然楽しくないんですけど、って言えない私は本当にダメだな……。
幹事の先輩たちは結婚することが決まっている。先輩はよく彼氏さんの愚痴を言うけれど、とても仲が良くて羨ましかった。私もあんな恋人同士になりたいのに、その相手は中田さんではあり得ないから今すぐ席替えをしたくて堪らない。
そう思っていたとき「遅くなってすいません」と個室のドアを開けて男の人が入ってきた。
「あ、待ってたよ洋輔」
彼氏さんが入って来た男性を歓迎した。
そういえば男性側は一人遅れてくるって言ってたっけ。
「洋輔くんはそこ座って」
先輩の声に従って洋輔と呼ばれた人は私の向かいの席に座った。
「俺の大学の同期生で椎名」
彼氏さんが椎名さんを女性陣に紹介した。
「椎名洋輔です。遅れてすいません。仕事が遅くなっちゃって」
自己紹介して笑う椎名さんはかなりのイケメンだ。顔のパーツの一つ一つが綺麗に整っていた。
椎名さんは一通り参加メンバーの顔を見渡し、目の前に座る私の顔を見ると笑顔のまま固まった。その不審な動きに私も椎名さんの顔を見た。数秒目が合い続け、その綺麗な目を向けられることに耐えられなくなった。
「あの……何か?」
「どこかで会った?」
「え? えっと……」
「名前教えて」
「え?」
戸惑う私に椎名さんは笑顔から一転して真顔で「君の名前、教えて」と同じことを繰り返す。まるで責められているようで焦ってしまう。