落ちる恋あれば拾う恋だってある
この時期は母の日のプレゼント商品を売り込むためにリーフレットを配らなければいけない。
手始めに秘書の宮野に数枚渡し、役員と秘書室から予約を取った。
そうすると他の部署からもリーフレットをほしいと言われ、本社の営業部並みに予約を受けてしまった。
俺、営業職もいけるかも。なんて単純に思ってしまう。
今日はこれでやっと早峰のメンテナンスが終わった。
夏帆にサインをもらいに行こうとした時「母の日の予約票ください」と女性社員が二人、エレベーターを待つ俺に話しかけてきた。
「どうぞ。ご注文は記入したらここにファックスしてください」
俺はリーフレットをそれぞれに渡し丁寧に記入箇所を説明すると、最後に二人に笑顔を向ける。
はい、これで新規2件獲得。
エレベーターが開き乗り込んだが、二人も俺について乗ってきた。俺は総務部の階のボタンを押し、二人は1階のボタンを押した。
「あの、営業推進部のフロアにも観葉植物を置いてほしいんですけど」
「ありがとうございます。では、一度御社の総務部にお話を通していただけると助かります」
早峰のビル内でのことは夏帆を通さないと契約しないことになっている。
「え? 総務部?」
「はい。総務部の北川さんが窓口でご契約させて頂いておりますので」
夏帆の名を出すと二人は顔を見合わせた。
「どうする?」
「総務部長に言ってみようか」
「そうだね。総務部長ならいいって言ってくれるし」
「あの、先に植物を置いてもらうってことでもいいですか?」
「申し訳ございません。北川さんと予算に応じた鉢の種類と大きさをご相談させて頂いてますので」
「えー……」
不機嫌になる二人の様子から夏帆に話を通したくない雰囲気を感じた。