どうぞ、ここで恋に落ちて
「えっ」
キョトンとした樋泉さんが至極当然のように言うので、驚いて思わず立ち止まる。
樋泉さんってば、なんでそんなにサラッとかっこいいことをしようとするんだろう。
ここから二駅も先にある私のアパートまで行ってまた戻って来なくちゃいけなくなるのに、なんでそんなこと黙って当たり前みたいにしてくれるのかな。
もしあのとき樋泉さんのマンションがこの近くにあることを聞いてなかったら、何の疑問も持たずアパートまで送ってもらっていたかもしれない。
「そ、そんなの申し訳ないです。ここで大丈夫ですよ、まだ明るいし」
「いや、でも、俺から誘ったんだし、それに……」
困ったように眉を下げる樋泉さんを見ていると、なんだか胸が締め付けられる。
樋泉さんと一緒にいるだけで、どんな一面を見せられたって、私ばっかりどんどん好きにさせられちゃう。
もうこれ以上、好きになったってどうしようもない人なのに。
今日一日が夢のように楽しかったぶん、お別れが近づいてくる切なさを振り切るように、私はふにゃっと笑ってみせた。
「本当に大丈夫です! 付き合ってるわけじゃ、ないんだし」
「え……?」
「私、樋泉さんは本当に素敵な人だと思います。だから、すずか先生のことを好きなら、ふたりを応援してます」