どうぞ、ここで恋に落ちて
「だって、す、好きな人とうまく話せないって」
私と樋泉さん、うまく話せてたよね?
私が疑いの眼差しで見上げるのを、樋泉さんは苦笑して受け止める。
「うん、だから、全然伝わってなかったんだって反省してる。俺としては、『一緒に駅まで歩いた夜にちっともしゃべれなかったのは、好きな子と話すのにメガネがなかったせい』っていう説明のつもりだったんだけど」
そ、そういうことなの!?
私はてっきり、メガネの秘密を打ち明けるついでに恋愛相談されてるんだと思ってた。
「わ、わかりにくいです!」
私の受け取り方も間違っていたのかもしれないけど、確かに全然話が通じてないよ。
なんだか泣きたい気持ちになりながら小さく叫ぶと、樋泉さんが腰を折って背の低い私と視線を合わせ、バツの悪そうに眉を下げた優しい表情で覗き込んできた。
「うん、ごめんね。なるべくうまく伝わるようにがんばるから、聞いてくれる?」
樋泉さんのアーモンド型の黒い瞳には、まっすぐに私が映り込んでいる。
さっきまで樋泉さんの好きな人はすずか先生なんだって完全に思い込んでいたから、突然すぎてまだ頭がついていかないけど……。
彼が私にこれを伝えるために追いかけてきてくれたのなら、それを私が聞かないわけにはいかない。