どうぞ、ここで恋に落ちて
私はこくりと頷きながらも、ささやかな反抗として唇を尖らせる。
だってそんなの、いきなり言われても信じられない。
樋泉さんが私を好きだなんて素振り、ちっとも見せなかったもん。
「私、樋泉さんは伊達メガネだから本当は見えるのにあんなことしちゃって、迷惑だったんだって思ったんです」
「まさか。俺、楽しかったって言わなかった?」
「そ、それは……」
うぅ、確かにそれは言ってた。
あの瞬間、キューンと胸を撃ち抜かれたように恋に落ちたのを覚えている。
もしかして私の方も、彼には釣り合わないと自分に言い聞かせるあまり、樋泉さんの気持ちを見落としていたのだろうか。
「いくら俺でも、好きな女の子と手をつないで歩けるチャンスを、みすみす棒に振ったりしないよ」
私を覗き込むようにしている樋泉さんが、困ったように笑いながら優しく目尻を下げる。
それを合図に固まっていた私の心臓がきゅんと音を立てて動き始め、ドキドキと大きく脈を打った。
それって、もうあのときから、私のことをそういうふうに思ってくれてたってことなのかな……?
「だけど樋泉さん、すずか先生にメガネを取られてすごく照れてるみたいだったから、あんなに赤くなってたのはすずか先生のことが好きだからなんだって……」