どうぞ、ここで恋に落ちて
「確かにあの場には千春子さんもいたけど、高坂さんも見てたでしょ。すごく焦ってたんだよ。好きな女の子の目の前で、他の女性にあんなふうにされて」
どんどん鼓動が加速していき、目眩がしそう。
ひとつずつ誤解の糸をたどり結び目を解いていくように、私の疑問に樋泉さんが曇りのない答えをくれる。
私はふわふわと浮かび上がりそうになる胸を押さえて、樋泉さんをジッと見つめた。
「ゆっくり好きになれたから、大事にしたいっていうのは……?」
「それはもちろん、高坂さんのことだったんだけど。俺、どんな本も誰かにとって特別な一冊になるようにっていつもがんばってる女の子に、1年前、一期書店で出会って恋に落ちたんだよ」
夕日が肌を焦がし、頬がかあっと熱くなる。
私はしばらく唇を引き結んで視線を泳がせ、ぐるぐると回る頭の中を整理してから、もう一度樋泉さんを見つめ返した。
「……ほ、ほんとに?」
樋泉さんは私と視線を合わせるために折っていた腰を伸ばすと、はにかみながら黒い髪を乱す。
「俺としては、『家まで送る』なんて申し出たり、"敵情視察"なんて言ってデートに誘ったり、高坂さんの前ではがんばってかっこつけようとしたり……けっこう、アピールしたつもりだったんだけど」