どうぞ、ここで恋に落ちて
驚いてパチリと瞬きをすると、目をまん丸にした樋泉さんの頬がポンっと赤くなる。
「え…………ええっ!? いや、だって、俺と千春子さんのこと応援するとか、高坂さんは全然そんな素振り……」
「え」
「すごく、う、嬉しいけど、何とも思われてないと思ってたから、びっくりして、えっと」
赤くなって俯く樋泉さんの頭の中で、大パニックが起こっているのが見てわかる。
あわあわと慌てふためく樋泉さんは、まるでさっきの私をそのまま鏡に映したみたい。
「ぷっ、ふふふ」
なんだかおかしくなってきて、私は目の端に涙を浮かべたまま吹き出した。
お互いに好きだったのに、ふたりとも両思いだって可能性はちっとも考えていなかったなんて。
滑稽で情けなくて、だけどどこまでも優しくて愛おしい。
メガネの奥に隠れていたスーパーヒーローの正体は、等身大の好きな人だった。
泣きながら笑う私と目が合うと、樋泉さんも眉をハの字にしてはにかんで頬を緩めた。
そしてそっと手を差し出す。
「えっと、もしよかったら、どういうことなのか説明してくれる?」
「はい、よろこんで」
私はこくりと頷き、躊躇うことなく右手を重ねて、その手をギュッと握り返した。