どうぞ、ここで恋に落ちて
私は思わず感嘆の声を上げる。
ドアの向こうの部屋の中でまず目に飛び込んできたのは、壁一面の本棚とピシッときれいに並べられたたくさんの本だった。
リビングと比べるとこちらの部屋の方が生活感があるようで、本棚の他にも雑誌と資料が重ねられているパソコンデスク、大きなクローゼット、ふかふかと気持ちよさそうなベッドに、読みかけの本が置いてあるチェストなどがチラッと見えた。
だけど本棚に目が釘付けの私はそちらへ興味を向ける余裕もなく、目を輝かせながら隣に立つ樋泉さんを見上げる。
「いいよ」
樋泉さんが二重まぶたの形のいい双眸を細めて優しく頷いてくれたので、私は飛び上がって隣室に足を踏み入れた。
本棚の前に立ち、端からゆっくりと視線を巡らす。
誰かの本棚を見せてもらうとき、そこには持ち主の見てきた世界や考え方がたっぷりと詰まっていると思うから、その人の話に静かに耳を傾けているような気分になる。
樋泉さんが何を見て、何を知り、何を好きだと思っているのか、そっと私に教えてくれる。
彼のつくり上げた世界にわくわくする。
「あ……」
端から辿って本棚の真ん中辺りまできたとき、いっぱいに詰まった背表紙の中にふと見覚えのあるタイトルを見つけた。