どうぞ、ここで恋に落ちて
樋泉さんの腕が伸びてきて、優しく私の腰を引き寄せる。
そっと腕の中に包まれると、樋泉さんの上品な香りが鼻先をくすぐり、くらりと眩暈がした。
樋泉さんがどことなく色気たっぷりなのは、彼が男の人らしい気品に溢れているからだ。
かっこよくて誠実で女の子にもモテモテだろうに、恋愛には不器用なところも好き。
「樋泉さん……」
直接肌に伝わる樋泉さんの鼓動にうっとりしながら名前を呼ぶと、彼は私の頬に小さなキスをくれた。
彼の腕に囲われて、大人しくジッとしたまま目を閉じる。
樋泉さんはそのままこめかみや耳元に丁寧に唇を滑らせ、それからコツンとおでこを合わせた。
互いの存在をゆっくりと溶け合わせるように、お互いの心臓が刻む少し速い鼓動に耳を澄ませる。
「古都」
樋泉さんが確かめるように私の名前を口にする。
私は空気を震わせただけの小さな囁きに誘われて目を開け、彼の広い背中に手を伸ばし、紺色のジャケットをギュッと掴むと、間近にあるアーモンドの形をした瞳を見上げた。
「好きです」
キスで遮られた私からの気持ちを端的に告げると、樋泉さんの喉元が小さく上下する。
それから突然樋泉さんの腕が力強く私を引き寄せたかと思うと、次の瞬間にはベッドが大きな音を立てた。