どうぞ、ここで恋に落ちて

14.焦り






その夜、樋泉さんはびっくりするくらいおいしい手料理を振舞ってくれた。

樋泉さんは「おいしいおいしい」と言って食べる私を、終始あの魅力的な瞳で見つめていた。

樋泉さんは「洗い物は任せてください」と言ってキッチンに立つ私に、「邪魔はしないから」といたずらっぽく笑いながら後ろからひっついていた。

樋泉さんはそのあと私の隣で無防備にゆったりとくつろいだり、本棚から数冊おすすめの本を貸してくれたり、私の手を握ってアパートまで送ってくれたり、掠めるようにおやすみのキスをくれたりした。


樋泉さんはたった1日で私をメロメロにして、骨抜きにして、陥落して、そして樋泉さんは……。



「古都ちゃん、樋泉さんと何かあったでしょ」

「ひえっ!」


突然頭の中を独占する人の名前が耳に飛び込んできて、私は驚いて雑誌を取り落としそうになった。

慌ててそれを胸に抱えて、涙目で隣に目を移す。


「さ、咲さん、どうしてそれを……?」


別に隠していたわけではないけれど、畏れ多くも私と樋泉さんが両思いだったとわかってからまだ2日しか経っていない。

どうしてわかったんだろう。

私、樋泉さんのことが好きだとすら言ったこともないのに。
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