どうぞ、ここで恋に落ちて

そ、そうなのかな。

たしかに私は樋泉さんの弱点を知ったときから、どうしようもないほど彼に惹かれているような気がする。

咲さんの言うように、それさえ好きと思ってしまったら、もう降参するしかないのかも。


「あの樋泉さんのダメなところって何かなー」


咲さんには、赤くなって目を泳がす私の表情から、私の考えていることまで手に取るようにわかるみたいで、小さな声でコロコロと楽しそうに笑っている。


ちょっとわかりにくいけど、これって、咲さんなりに「おめでとう」って言ってくれてるのかな?

……からかわれているだけのようにも思えるけど。


私はなんだかくすぐったくなって、どこか上機嫌な咲さんの隣で肩を縮めながらせっせと手を動かすことに専念した。



* * *



そんな会話があった日のお昼過ぎ、休憩室で来月のイベントコーナーに向けてひとり準備を進めているときのことだった。


「え? すずか先生がですか?」


つい最近まで樋泉さんとセットで私を悩ませていた人の名前に、驚いて顔を上げた。


「うん、そうらしいよー。さっき小夏書房から告知出てた。すずか先生がサイン会やるのは1年ぶりだってさ」
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