どうぞ、ここで恋に落ちて

休憩室の小さなテーブルにコンビニのお弁当を広げながら、伊瀬さんが携帯を差し出してくる。

恐る恐る受け取り画面を覗くと、小夏書房のホームページにあるイベント情報が表示されていた。


サイン会の開催日は、今月の最後の週末。

一期書店でミエル文庫をメインとしたイベントコーナーを展開するのは、その1週間後からだ。


「小夏書房で、すずか先生がサイン会……」


テーブルの上に置いてある手作りのポップは、すずか先生の本を紹介するためのもの。

ミエル文庫の売れっ子作家であるすずか先生の作品はイベントコーナーの中でも目立つところに置きたいし、色遣いにもレイアウトにもこだわって丁寧に作ったつもりだったけど……。

どんなに色鮮やかなポップも、本人のサイン会と比べられれば途端に霞んで見える。


「やっぱ、ちょっとショックだよね。時期が時期だし。けど、早めに知ったほうがいいと思って……」


呆然と画面を見つめる私をさり気なく横目で眺めていた伊瀬さんが、困ったように眉を下げる。


イベントコーナーには、話題の本や旬の作家が取り上げられやすいものだし、他の書店とネタが被ることも珍しいことではない。

そうとわかってはいても、大型書店である小夏書房でこちらより一足早くサイン会が開催されるともなれば、私がどんなにがんばっても見劣りしてしまうんじゃないかって、どうしても不安になる。
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