どうぞ、ここで恋に落ちて
不安と焦燥、それから樋泉さんに頼りたい気持ちと、彼自身への嫉妬がごちゃまぜになる。
自分の中に渦巻くいろんな感情を持て余し、ポカンと口を開けたまま少しの間停止していると、いつの間にか言葉の代わりに涙がせり上がってきた。
私が自分の涙にギョッとするのと同時に、目の前の樋泉さんも驚いて目を丸くする。
「すっ、すみませ……」
泣くつもりも理由もない。
泣いていいタイミングでもない。
ほんとに、絶対、今は樋泉さんの前で泣きたくないのに!
動揺しながらも視界を歪ませる水分を蒸発させるべくパチパチと瞬きをする私を見て、樋泉さんの眉間にシワが寄り、うんと真剣な表情になった。
「こ……」
彼の手がスッと頬に伸びてくる。
だけどその指先が触れる前に突然背後からガシッと両肩を掴まれ、そのまま後ろに引き寄せられた。
「わっ!」
「古都ちゃんってば聞いてる? 手があいてたら入庫作業手伝って欲しいなあ、つって」
くるんと身体が反転すると、目の前にいたのはニカッと人懐こく笑った伊瀬さんだった。