どうぞ、ここで恋に落ちて
私はパチリと目を瞬く。
入庫作業を手伝う?
今朝届いていた入庫の必要な本は特別冊数も多くなかったし、あの程度ならいつも誰かがひとりで終わらせてしまう。
何より今日の作業は午前中に全部私がやったはずで……。
「手、あいてるよね? 暇だよね?」
肩を掴まれたままやけにニコニコした伊瀬さんに迫られて、瞼の奥に溜まっていた涙がすっかり引っ込んでいく。
「伊瀬さん、えっと、入庫は私、午前中に……ぅむ!」
状況が掴めず混乱する私の頬を、伊瀬さんの手のひらが両側からパシッと挟み込む。
そして、樋泉さんの指先が届かなかった目の縁にさり気なく触れ、そこに滲んで残っていた涙をきれいに拭き取って離れていった。
視線が絡み合う瞬間、ほんの一瞬だけ真剣な顔をした伊瀬さんの目が、"しっかりしろ"と伝えている。
だけどまたすぐに表情を崩すと、バシバシと痛いほど強く肩を叩きながら人の悪い顔で笑った。
「じゃ、頼むね古都ちゃん。俺も手伝いながらちょっと隣でサボ……休憩するからさ」
「はっ、はい!」
本当にサボられては困るんだけど、伊瀬さんなりにベソベソしてる私を叱りに来てくれたのだとわかってる。