どうぞ、ここで恋に落ちて
「次の土曜、部屋においで。そこでなら俺に慰めさせてくれる?」
き、きゃああ……!
心臓がひときわ大きく脈を打つと、全身の血液が勢いよく駆け巡って一気に身体が熱くなった。
樋泉さんがあんまりセクシーに囁くもんだから、膝に力が入らない。
お客様が少なくて誰にも見られていないからといって、仕事中に店内でこんなことをするのは樋泉さんらしくない。
振り返って忠告しなくちゃいけないって思うのに、目が点になって完全に呆けている伊瀬さんを前にしたまま、私も固まってしまった。
「古都?」
樋泉さんに返事を促されて、ぶるぶる震えながらとにかく何度も頷いた。
きっと私、耳まで真っ赤になってる。
樋泉さんはそんな私の反応にご満悦の様子で、パッと腕を放して距離を置くと、ギシギシと音を立てて振り返った私にニコリと微笑む。
「それでは高坂さん、今日はこれで。また来ます」
そう言って少し緩くなったネクタイをきっちり締め直すと、颯爽と店を去って行く。
その後ろ姿はもうまるきりいつも通り、栄樹社からやってくる営業マンの樋泉さんだ。
だけど彼は、伊瀬さんの前にとんでもない爆弾を落としていったわけで……。
「古都ちゃん、俺…………好きになるかと思った」
何から聞かれるかと身構える私に伊瀬さんが放った第一声がそれで、彼があんまりぽーっとしているものだから、私は別の意味で冷や汗をかくことになった。