どうぞ、ここで恋に落ちて

肩が触れ合うと、不満顔の樋泉さんが美しい双眸を軽く見張って私を見た。


彼のまっすぐで精悍な眉と、柔らかな曲線を描く二重の瞼、ブラウンの虹彩に沈む深い黒には、解けない魔法が掛かっているみたい。

私の樋泉さんへの気持ちが少しずつ形を変えても、その引力は変わらず私の心に小さな波を立て続ける。

沈黙の中、互いに刻む鼓動がだんだん速くなる音に耳を澄ます。


引き寄せられるままじっと見つめていると、スーパーヒーローの耳がポンッと淡く色づいた。

唇をギュッと引き結んで緊張しちゃう樋泉さんに、私はほっと胸が軽くなるのを感じて頬を緩める。


「でも私、こっちの樋泉さんのほうが好きなんです」


何もかも完璧なスーパーヒーローより、不器用でシャイな樋泉さんが好き。

もっともっと安心させて欲しくて、赤くなった樋泉さんのほっぺに手を伸ばした。


彼は小さく息を飲むと、怒ったように眉をひそめながら私の背中に手をまわしてそのまま優しく引き寄せてくれた。


「古都ってときどきズルい」


樋泉さんのかわいい文句に小さく笑って瞼を下ろす。

唇が触れ合うと、いつもより速いふたりの心臓の音もぴったりと重なり合った。
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