どうぞ、ここで恋に落ちて
触れるだけのキスを繰り返しながら、樋泉さんの大きな手のひらが慰めるように背中を行ったり来たりしている。
その手の速度と彼の中毒性のある深くて甘い香りが混じり合って、何かに突き動かされる私をどんどん急かした。
キスを求める熱に浮かされた唇に、樋泉さんが柔らかく歯を立てて離れていく。
私は体温の上がりかけた身体を持て余しつつ、互いの吐息を頬に感じる距離でゆっくり目を開けた。
端正で涼しげな目元に微笑みを浮かべた樋泉さんは、薄くて形のいい唇を私の鼻の先に押し付ける。
「もっと修業して、古都がどろどろに溶けちゃうまで傅きたいな。いつか、俺だけに許される特別な方法でね」
いたずらっぽく囁きながら、私の瞼や頬に小さなキスを落とした。
彼の声も香りも指先もキスも言葉も、何もかもが私の胸をきゅーっと締め付ける。
私、樋泉さんのことが好きで好きで仕方ない。
それなのに、いつからか芽生えた焦燥感が心の底で私を捕らえて離してくれない。
そのことに気が付きたくなくて、もっと彼の近くにいたくて、私はソファの上で膝立ちになると樋泉さんの首の後ろに腕をまわしてギュッと抱きついた。