どうぞ、ここで恋に落ちて
「っと!」
私の勢いを受け止めてバランスを崩しそうになった樋泉さんが、慌ててソファの上に手をつく。
「古都?」
ぎゅうっと抱きついて彼の首筋に顔を埋める私を気遣うように、樋泉さんの両腕がそっと身体を包み込んだ。
少し骨張ったきれいな指先が私のふわふわした髪を丁寧に梳く。
その仕草や態度から、樋泉さんが最初からずっと、お店で会ったときに泣き出しそうになっていた私を、さり気なく慰めようとしてくれていることに気が付いた。
理由も聞かず、ある程度の冷静さと自制をもって、大事に扱ってくれている。
だけど彼がそうやって"私にとっての素敵な樋泉さん"を保とうとしてくれていることが、今の私には何の慰めにもならないどころか、どんどん複雑な気持ちを膨らませるだけだった。
どうやったって、私ではつり合わない気がするから。
私は、スーパーヒーローに守られたいんじゃなくて、樋泉さんと並んで歩きたいのに。
「いつか、って……」
「ん?」
甘やかすように私に触れる樋泉さんの耳元で小さく声を吐き出した。
本当は、慌てたり取り乱したりもする完璧じゃない樋泉さんでさえ大好きだと言わせて欲しいのに、そう望むほどに惨めになる。