どうぞ、ここで恋に落ちて
だけど私が強引なキスをして彼に身体を預けようとするほど、樋泉さんは息をのんで表情を強張らせた。
そこにいるのは、顔を真っ赤にして照れるキュートな樋泉さんではなく、眉間にシワを寄せて私をまっすぐに見据える樋泉さんだった。
樋泉さんの真摯な瞳と目が合うと、頬がカッと熱をもつ。
私は慌てて唇を離し、俯いて視線を外した。
「ご、ごめんなさい……」
ほてった唇をぎゅっと噛みしめると、沸騰寸前だった頭の中が急にサーッと冷えていった。
何してるんだろ、ほんと。
私、精一杯で余裕のない樋泉さんを見て、安心したかったんだ。
かわいい弱点をもつこの人となら、なんの引け目も劣等感もなく好きって気持ちだけで向き合えるって。
自分がこうしたら完璧じゃない樋泉さんを見せてもらえるかもしれないなんて、思い上がりも甚だしい。
不安だからって、私ばっかり急いでこんなことしたって仕方ないのに。
恥ずかしくて情けなくて、本当は家に逃げ帰りたいくらいだったけど、身体を離そうとする前に樋泉さんの両腕がそっと背中にまった。
あやすように優しく背中をポンポンと叩いてくれて、それでも逃しはしないとでもいうように私を腕の中にしっかりと囲う。